繊維産業に見る「技術かトレンドか」
悲観と明るさが交じった景気展望になってきた。株式市場はかなり戻し、しかしさまざまな経済統計ではまだ暗い数字が多い。それは潮の流れの転換期には当然の現象であろう。私自身の展望については、楽観派であることはすでにこのコラムで数回に亘って述べてきたので、繰り返さない。しかし、暗い状況の中でも将来に対する自信を持てる経営者と現在の状況へのおびえに支配される経営者と、どこに違いがあるのか、それをつくづく感じさせられる2人の経営者にイタリアで会ってきた。
十数年ぶりに、北イタリアのミラノ郊外の繊維産業の集積地を理科大MOTのチームでこの3月下旬に訪れた。ジェトロ・ミラノ・センターのお世話で、綿織物や刺繍の産業集積のあるガララーテと絹織物を中心とする産業集積のあるコモと、2つの隣接する地域で2つの企業を訪問し、経営者の方に詳しくお話を聞く機会を持てた。その前後に、ミラノ工科大学やパドバの企業にも訪問して、イタリアの状況を垣間見ることができた。
イタリアの繊維産地も今回の不況で大きな打撃を受けていた。受注は前年比3割も4割も産地全体では減っているという。先進国の繊維産業としては異例の大幅貿易黒字をあげるイタリアの繊維産業も、さすが今回の高級品需要も含めた世界的需要後退は痛かったようだ。
その中で、ガララーテのアスペジ社の4代目経営者は、静かな中に自信を感じさせた。他方、コモで最近伸びてきていた企業グループ(プリント以外に、染色、織物などの工程をグループ内に持っている)の創業経営者は、困り果てた様子を見せていた。ともに、自分のコレクションとしての布地の自社ライン製品を100近く、毎年出している。そして、自分のコレクション以外に大手のファッションメーカーから依頼された特注品の生産もやっている。売り上げ規模も似ているし、その売り上げの中での自社コレクションの比率も約半分程度、と似ていた。
アスペジ社は自社独自の刺繍技術をベースにした製品を武器に、コモの企業は技術はとくに独自のものではないが市場のトレンドをなるべく早く感じさせる動きのよさを武器に、ともにファッション性の高い布地の分野で異なったタイプの勝負をしてきた企業だった。前者の経営者は、「この地域の伝統的技術にわれわれ独自のイノベーションを加えて、誰にもマネのできないファッション性の高い製品を出せば、今後も大丈夫」という。後者の経営者は、「市場が縮小すると、動きの早さで勝負してきたわれわれにはつらい」という。単純に区分けをすると、技術のベースに自信のある経営者はこの大不況にも前向きで、市場の動きに機敏に対応することで成長してきた経営者は大不況にまいっている、ということになる。
もちろん、それは単純化しすぎなのだが、しかしアスペジ社の経営者の言葉には、どこか結論のたしかさを裏打ちするような「真実の響き」があった。自分の曽祖父が刺繍加工の企業を創業し、「まだ若い100年足らずの会社です」とホームページで自己紹介している。父親は家業を経営者としては継がずに古代言語学専攻の大学教授になったが、しかし家業の現場にはずっと関与してきて、その父に育てられた3人兄弟が今経営を担っている。














