震災、電力不足、円高と、企業には逆風が吹いている。現状では多くの業種において業績アップを目指すのは困難な状況だろう。長期的にも少子高齢化という重石があり、低成長時代が続くことに異論を唱える人は少ないはずだ。
このような状況下で業績アップを図るにはどうすればいいのだろうか。低成長時代における成長のための第一の選択肢は「原価管理」である。
経営者の中には、「そんなことは承知しているし、原価管理の本を何冊も読んだ」という方も多いはず。しかし、有効な原価管理の方法は会社の規模によって異なり、どの会社にも本に書かれた原価管理のノウハウが適しているわけではない。すべての業種、すべての事業規模に通用する理論、唯一絶対の経営法則はないのである。
たとえば、売上高2億円以下の小規模な会社は経営者の目が社内全体に届きやすく、感覚を研ぎ澄ますことでムダに気付くことができる。経営者が目をこらし、身の回りのムダを削るだけで十分コストダウンを図ることが可能なのだ。
もちろんムダは徹底的に削減すべきだが、この規模の会社だとその効果はたかが知れている。だから、そこにはパワーをかけず、新規顧客の開拓などに力を入れるべきなのだ。
対して売上高10億円を超える規模の会社になると、経営者の目が届く範囲は限られる。その分、マネジメントの必要性が高まるし、原価管理を徹底することでムダを省いて利益のアップにつなげやすくなる。
では、どのような方法で原価を管理し、コストをカットすればいいのか。そこで出てくるのが、管理会計の考え方だ。管理会計は、業績について検討するための資料をまとめ、経営者が日常業務のプロセスや仕組みの変革をもたらす意思決定に役立てるのが目的である。
原価の3要素は「材料費」「労務費」「経費」である。また、その3要素ともに、1個の製品に紐付けられる「直接費」と、紐付けられない「間接費」に分けられる。
たとえば、材料費のうち一つの決まった製品に使われる素材や部品は直接費、複数の種類の製品の製作に用いる接着剤などは間接費に分類される。労務費では、直接工の賃金は直接費、事務員や現場監督の賃金は間接費だ。経費については、外注費は直接費、電気代や通信費などは間接費と位置づけられる。

そのような形で支出したお金を6つに分類し、原価計算書に記入していく。原価の内訳を細かく分けることで、どのコストが膨らんでいるかが一目瞭然となり、コストカットすべき部分が見えてくる。いうなれば、原価計算書は収益構造のレントゲン写真であり、そこから病巣を見つけてメスを入れるわけだ。さらに、顧客別に分けて原価計算書を作成するのも効果的である。原価率の低い顧客から順に「A」「B」「C」のランクを付け、BとCランクの顧客の原価を徹底的に見直せば、利益アップに直結させられる。
売上高100億円、営業利益率10%の会社が50%増益、つまり5億円ほどの増益を達成するためには、売上高を50億円増やすか、原価を5億円分削るしかない。売上高を増やそうとしたら、新規の顧客を増やしたり、既存顧客との取引条件を見直す必要がある。しかし、この低成長時代には難しいだろう。対してコストダウンは社内の見直しで完結する。
いろいろと会計の本を読んだ勉強好きな経営者ほど、細かい原価の数字にとらわれて、「木を見て森を見ず」に陥っていることが多い。管理会計の目的は業務改善で利益を向上させていくことである。まずは先の6分類の数字をきちっと押さえ、原価というフィルターを通して会社の病巣に迫ってほしい。
柴山政行(しばやま・まさゆき)
1965年、神奈川県生まれ。埼玉大学経済学部卒業後、92年10月に公認会計士二次試験に合格。大手会計事務所勤務などを経て、98年に柴山政行公認会計士事務所を開設。コンサルティング、実践的な会計教育など業務の拡大にともない、2004年に合資会社柴山会計ソリューションを設立する。近著に『一目で見抜く!財務諸表解読法』がある。
高橋晴美=構成
ライヴ・アート=図版作成














