2011年12月13日(火)

コストを3割減らせといわれたら

西山俊太郎

「この対応は半年だけだ」

ヤナセ社長 西山俊太郎●1945年、東京都生まれ。68年法政大卒、梁瀬(現ヤナセ)入社。専務、副社長を経て2007年10月から現職。

 本当をいうと取材に応じるのは苦手なんです。しかし、いまは嫌いなことを率先してやらなければいけないと思っています。

 というのは、2008年秋以来の売り上げの急減を受けて、関係先や従業員に無理をきいてもらいコスト削減を実行しました。おかげで09年9月期決算もなんとか黒字で迎えることができました。

 他人に嫌なことをやらせておきながら、自分だけ逃げるわけにはいきません。やりたくないなら辞めるしかない。そう腹をくくって社長業を務めています。

 それにしても、悪いときにトップになったなと思いますよ(笑)。100年に1度の経済危機だと誰かがいいましたけれど、私の実感もそのとおりです。08年は年初から販売に減速感が出ていたので、売り上げがかなり減りそうだという心積もりはできていました。新車販売・中古車販売・アフターサービスという収益の3本柱のうち新車販売は25%減くらいかとそろばんをはじいていたのですが、9月のリーマンショック以降、それでは済まない惨憺たる状況になりました。

 念頭にあったのは「会社を存続させなければならない」ということです。自動車ディーラーは、売りっぱなしでは済まされない仕事です。5年、10年とアフターサービスが続きます。ですからお客さまや従業員のため、是が非でも会社を守らなければならないと考えました。

 販売が急減しても会社を維持するには、強力にコスト削減を進めることです。秋以降、即座にコストダウンの計画を練りました。

 一つは広告宣伝費の抑制です。94年前の創業以来、ヤナセはたくさんの広告会社やメディア各社のお世話になってきました。その関係をゼロに戻すわけにはいきませんから、これまで10だったところを3にするという形でそれぞれ合意をしていきました。

 店舗の賃料も対象にしました。ヤナセの店舗は15~20年の長期契約を結んでいるところが多いのですが、貸主と交渉を重ねて契約を見直し、いくらかでも安く改定してもらいました。そして、そのうえで従業員の給与カットに踏み込んだのです。

 私たち役員は当然ながら真っ先に報酬を削減しましたが、従業員の給料はいわば聖域です。できれば手を付けたくなかった。人件費は、いわゆる「コスト」ではないからです。

 私たちが働くのは第一に生活の糧を得るためです。油まみれになって働くメカニック、人に頭を下げて買っていただく営業マン。自動車ディーラーの仕事は、正直いって誰もが憧れる類のものではありません。入社間もなくの若手が給料を減らされたら、夢も希望もなくしてしまうでしょう。だから給与カットの対象は「一定の勤続年数以上の者」としました。

 私は幹部社員を集め、会社が置かれた過酷な状況を率直に話し、「この対応は半年後には終わらせる」と明言しました。そして、その場にいた幹部に対し、現場へ戻って同じように正直に話せと命じました。

 人は情報が不正確で先が見えないときに不信感を抱きます。そうなれば労働組合もわれわれの提案を受け入れてくれないでしょう。だからそのときは、真剣勝負のつもりで一語一語に気迫をこめて話したのです。

 世界同時不況にあたって、上司からコストを減らせと迫られている人は多いと思います。地位や権限によってできることは限られるでしょうが、相手にとって嫌なことをお願いするということは同じです。自分たちの状況を正確に、正直に説明し、納得してもらえるようぶつかっていくことが大事です。嫌なことから逃げてはいけないと思います。

※すべて雑誌掲載当時

PRESIDENT 2010.1.18号 掲載
面澤淳市=構成
ミヤジシンゴ=撮影

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