2009年11月27日(金)

「残業代不払い」といわれない賃金規程は
こうしてつくる

社員とモメない就業規則のつくり方

矢島 秀悟

 不動産販売業のA社に突如、退職した元営業社員のCさんが労働基準監督官を伴ってやって来ました。社長のBさんはただ驚くばかり。そんなB社長に監督官は、Cさんに“未払い”の残業代500万円の支払いを命じます。B社長は「残業代は支払った」と主張しますが、結局は却下され、Cさんに500万円を支払うことになりました。いったいなぜ、こうなってしまったのでしょうか……?

実質労働時間がわからないから「営業手当」を支給

 A社が「残業代を支払った」と主張したのは次の根拠からでした。
「営業社員は、朝はお客様へ直行が多いし、夜も遅くまでお客様と折衝後そのまま帰宅する、あるいはお客様の接待などで労働時間がよくわからないから『営業手当』を支給して残業代としています」

 A社のような発想で、現在支給している手当をいわゆる「定額残業代」として、残業代を前払いしていると認識している経営者も多くいらっしゃいます。しかし、ここに意外な落とし穴があります。

 労働基準監督官は臨検の際、必ず賃金規程を確認します。そこには、営業手当に関し、「営業社員に対し支給する手当であり、勤続年数別、能力別に金額を決めます」などといった記載がなされているケースをよく見受けます。しかしこの条文を見た監督官は、間違いなくこう言います。

 「営業手当は残業代とはまったく異なります。残業代不払いの状態です」

 このようなA社のケースのみならず、「基本給に残業代を含んでいる」「当社は年俸制を採用していて、残業代を含めた賃金を支給している」などの主張も、監督官から残業代不払いの指摘を受けます。

残業代不払い」といわれない賃金規程とは

 A社のように残業代不払いを防止すべく、諸手当を残業代の前払いとしていたにも関わらず「不払い」とされてしまっては、経営者としてはやり切れない気持ちになるでしょう。

 労働基準監督官は、労働基準法通達(昭和24.1.28 基収3947号)や過去の労働判例(関西ソニー販売事件 大阪地裁 昭和63.10.26 など多数)を根拠に、「定額残業代」として適切に残業代を前払いしているかどうか、以下の観点から判断します。

(1)「営業手当」などが定額残業代としての労働条件、雇用契約となっており、労使間で認識していること

(2)定額残業代とそれ以外の通常の労働時間に対する賃金(基本給など)が明確にわかること

(3)支払われた定額残業代が、実際に行なった残業時間を労働基準法の計算により割増賃金の額を算出し、その額を下回っていないこと

(4)実際に行なった残業時間が定額残業代分として計算される残業時間を超えた場合は、超過分を別途適切に支払っていること

このような観点を踏まえ、対策としていくつかのポイントがあります。

[1] 「営業手当」を「営業時間外手当」に名称変更

 「営業時間外手当」に名称を変更することで、社員のみならず対外的にも「営業手当」は残業代を含んだ手当であると客観的に認識させることができます。

[2] 賃金規程に「営業時間外手当は残業代である」旨を記載

 具体的には、「営業時間外手当は一定時間の時間外割増(残業代)、休日割増、深夜割増として支給する手当です」のように記載しましょう。このように記載することで、休日や深夜労働に対する割増賃金も、残業代と併せて定額の中に含むことができます。

 その際、「営業時間外手当」にはそもそも何時間分の残業代として支給しているのか賃金規程上で社員に明示する義務は実はありません。むしろ、明示しないことをおすすめします。

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