2010年04月15日(木)

インドが今も「反工業化」の根深い理由

橋本 久義

 今回も、引き続きインドの話である。前回(JBpress「インドはやはり混沌の国だった」)はインドで今も根強い「反工業化」の動きを指摘した。インドの反工業化の動きの背景には宗教的なものと、政治的なものがある。

自然との共生を尊び、資本主義には反対

 宗教面で言えば、インドの主流を占めるヒンズー教は自然との共生が教義だから、基本的に生き物を大切にする。だから高速道路に牛が出てきても追い出さない。ゆっくりと勝手に出てゆくのを待つ。納期に遅れるとしても、それは別の問題。どうせ牛がいてもいなくても道路は渋滞しているのだから・・・。

 ジャイナ教に至っては一切の生き物を殺すことを禁じている。私が教えている大学の留学生にジャイナ教の信者がいて、某団地に住んでいたのだが、近所からクレームがつきっぱなしだった。

 それというのも、彼はゴキブリがいてもスリッパで叩くようなことはない。蚊取り線香も焚かず、ゴキブリホイホイも置かず、殺虫剤も撒かないので、自然にハエ、蚊、ゴキブリ、ダニ、南京虫、ネズミ等の安息地になり、周辺の部屋への出撃基地になる。周りの住居の人がいくら殲滅作戦を決行しても、安全地帯が確保されているから、ネズミもゴキブリも大威張り。どうやってもイタチゴッコになる。

 彼が退去した後、私が部屋の点検に入ったのだが、引き出しを開ければゴキブリ300匹、絨毯を上げればゴキブリ2000匹。押し入れにはネズミの巣があるわで、大変な騒ぎだった。しかし、ゴキブリやネズミは、彼や彼の家族が寝ている時にも歩き回っていただろうに、いったいどうしていたんだろう?

 閑話休題

 政治面で言えば、インド政府は独立後、長らく社会主義を国是としてきたため、「資本主義は悪。大企業は悪」という潜在的気分があると思う。前回紹介したタタ自動車新工場に対する反対運動も、左翼の政治家に扇動されたものと言われている。

 いずれにせよ、「反工業化、反近代化」のような住民運動が簡単に起こる環境の中で工業を発展させるのは容易ではない。

 そういえば、台湾資本の巨大EMS(電子機器の受託生産を専門に行う企業)である鴻海(Foxconn)もインドでは苦戦していると聞く。インドのGDPに占める製造業の比率が約2割と、日本・中国・韓国などに比べて極端に少ないのも、むべなるかなという気がする。

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