2010年03月05日(金)

CIO/IT部門に課せられた最大のミッションは何か?

ITを企業の戦略的ツールとして使いこなすべく、「5つのチェンジ」と「3つのスキル」で“自律自走する組織”を目指せ

荒井 岳 日立コンサルティング シニアディレクター

一向に改善しないシステム開発のQCD

 ここ10年ほどの間で、インターネットや携帯電話などをはじめとする情報通信分野は格段の進歩を遂げた。また、企業におけるITのあり方も、ERPシステムなどパッケージ・ソフトの普及、アウトソーシングの拡大などにより、大きく変貌している。その結果、今日のITシステムは、企業の戦略を実現するうえで不可欠なインフラだとされるようになった。だが本当に、各社のITシステムは戦略上、重要な課題を解決し、その効果を存分に発揮しているのだろうか。残念ながら、一部の企業を除いて、答えは「No」であろう。これを達成するためには、ITの担い手であるCIO/IT部門が、これまでのやり方や役割を捨て、新たな変貌を遂げる必要がある。

 図1に示すのは、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が先ごろ実施した「企業IT動向調査2009」の結果からの抜粋である。同調査は、情報システムのQCD(Q:Quality[品質]/C:Cost[予算]/D:Delivery[工期])を調べるべく継続的に実施しているもので、今回(2008年度)が14回目となる。

図1:システム開発のQCDに対する満足度

  この調査結果を見る限り、システム開発の品質、予算、工期は、過去から大きく改善していない。具体的には、500人月以上の大規模なシステム開発では、「品質に満足」、「予算どおりに完了」と答えたのはわずか10%で、工期についても「予定どおりに完了」という回答は13%にとどまっている。つまり、 ITを企業経営の戦略的なツールとして十分に活用できているのは、アンケート回答企業全体の10%程度というのが実態なのである。

 このような状況を打破し、ITの戦略的活用の担い手となるためには、CIO/IT部門が「チェンジ」を実践し、自ら変わることが求められる。また、その「チェンジ」を支えるための「スキル」を身に付けることも不可欠となる。

CIO/IT部門に求められる「5つのチェンジ」と「3つのスキル」

 それでは、CIO/IT部門がなすべき「チェンジ」と、それにあたって必要となる「スキル」とは、果たしてどのようなものなのか。それをまとめたのが図2である。

図2:「5つのチェンジ」と「3つのスキル」

 まず「5つのチェンジ」においては、伝統的なコスト・センターとしての「IT予算」の考え方から脱却し、企業戦略に基づく攻めの「IT戦略」を策定する。

 また、“御用聞き”のようにユーザーの要求をうかがう従来型の「要件定義」ではなく、経営幹部やユーザー部門を積極的に巻き込んで新たな解決策を導く「要件創造」が求められる。これを繰り返すことにより、単なる「システム開発」ではなく、新たな「ビジネス・モデル開発」を目指すのだ。それに適したシステム開発手法として、近年では欧米企業でアジャイル開発手法が台頭してきている。

 さらに、システムの“お守り”としてメンテナンス中心の「システム運用/管理」に甘んじるのではなく、戦略的な効果が十分に発揮できるよう「システム活用/監督」を推進することが重要になる。そして、そうした役割を果たすうえでは、もはや「プロジェクト・マネジメント」だけでは足りず、「チェンジ・マネジメント」の専門家となることが必要になるだろう。

 一方、上のような取り組みを支えるためには、「リーダーシップ」、「コミュニケーション」、「ナレッジ」に関するスキルが求められる。「5つのチェンジ」の実践においては、経営陣やユーザー部門を巻き込むために、特に今まで以上に強いリーダーシップが求められる。

メンバー各自がリーダーシップをとる「新幹線経営」へ

 読者は「新幹線経営」という言葉をご存じだろうか。通常の列車の最高速度は時速100km程度だが、新幹線はその3倍の時速300kmで走る。それが可能な理由は、通常の列車では先頭車両だけが駆動しており、他の車両はそれに引っ張られているだけなのに対し、新幹線ではすべての車両がモーターで駆動するからだ。

 「5つのチェンジ」を実践するには、CIOだけがリーダーシップを発揮するのではなく、IT部門の各メンバーが新幹線の車輌のようにモーターを持ち、それぞれにリーダーシップを発揮して“自律自走”することが求められる。

 ただし、新幹線のようにレールが敷かれているわけでもなければ、メンバーが物理的に連結されているわけでもない。そのため、これまで以上にメンバー間のコミュニケーションを密にするとともに、それぞれが経営知識や業務知識などのナレッジを身に付けることが重要となる。メンバー各自が目的(企業戦略に基づくIT戦略)を理解して自律自走する組織の構築こそ、これからのCIO/IT部門に課せられた最大のミッションなのだ。

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