経営戦略 [PRESIDENT Online] 2010年02月02日

なぜアサヒビールの社員は1%も辞めないのか

部下育成は上司の最大のミッション

 会社や経営者に対する社員の信頼や一体感醸成の要となるのが管理職だ。同社が最も力を入れているのは管理職を中心とする幹部社員の教育である。その一つが部下育成の評価への反映。管理職層の評価は業績評価と行動評価の2つであるが、ライン長の行動評価は「部下の労務・健康管理」「チームワーク・結束」と並んで「人材育成」を重要な評価項目に掲げている。同社では部下育成は「上司の最大のミッションであり、部下育成ができない人間は管理職としてだめだ、ということを発信し続けている」(丸山人事部長)。

 さらに部下育成を重視した取り組みも強化している。05年には支社長・本部長など全事業場長クラスと関連会社の社長の計120人を集めた場で、「社員の育成」をテーマにした大ディスカッションを開催している。また、05年から全所属長を対象にしたコーチング研修を実施している。今年もライン長約170人を4班に分けて東京、近畿、九州地区で2日間の研修を実施した。

「コーチングの利点は質問を通じて相手の良さを引き出す人間性尊重の考え方が底辺にあります。部下を甘やかすのではなく、部下の力を引き出して本人に考えさせる。研修ではロールプレーや部下育成についての共有化というテーマで議論するなど丸1日かけて実施します」(丸山人事部長)

 研修には同社の荻田伍社長もすべて出席している。「参加者にメッセージを送り、懇親会では全テーブルを回って歩く」(丸山人事部長)など、全社一丸となって人材育成に力を入れている。

 愛社精神は企業の競争力を高める原動力であるが、同時にそれを支える仕組みも企業を取り巻く環境の変化に応じて変わらざるをえない。グローバル競争を勝ち抜くために年功型の昇進・賃金制度から成果重視の仕組みに変化したように愛社精神を支えていた従来の仕組みも変化を余儀なくされている。

 企業環境に合わせて愛社精神を維持していくには、変えるものと変えてはいけないものを見極めつつ、変化に即応する不断の努力と継続性が不可欠である。アサヒビールの取り組みにはグローバル競争時代に打ち勝つ新たな日本的経営のヒントが隠されている。

溝上憲文(みぞうえ・のりふみ)
ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学政経学部卒業。経済誌記者などを経て独立。経営、ビジネス、人事、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍中。著書に『年金革命』『隣りの成果主義』『団塊難民』などがある。
PRESIDENT 2008.12.29号 掲載
ジャーナリスト 溝上憲文=文

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