経営戦略 [PRESIDENT Online] 2010年02月02日

なぜアサヒビールの社員は1%も辞めないのか

定年OBが手間ひまをかけて若手を育成

 2007年からは入社2~3年目および中途入社の社員を対象にキャリア面談を実施している。担当するキャリアアドバイザーは同社の人事部およびグループ企業の社長を経験した定年OBの2人だ。2人で全国の工場・支店を巡回し、まず上司に育成方針と課題についてヒアリングしたうえで個別に面談する。そこでは「職場では言えないような話をはじめ、OB自身の失敗談や克服してきた体験談などをまじえて相談に乗る。息子よりも若い世代ですが、OB側にも育てたいという意欲が強い」という。

 決して外部のアドバイザーではない。OBによる手づくりのフォローは一体感の醸成にも貢献している。

 同社の会社と社員の関係を宣言しているのがグループ人事基本方針だ。(1)挑戦・革新社員に対し、成長と能力発揮の場を提供する(2)能力を十分に発揮し、やり抜き、成果を挙げた社員に厚く報いる(3)社員の成長を推進し、グループ全体の競争力を向上させる――という3つに加えて(4)雇用確保に努める、と宣言する。

 前掲のGPTWの調査では社員の生の声に「解雇による人員削減をしない」とあったが、社員を大切にするというメッセージを込めている。

 さらに人事方針のキーワードとして「新・成・気・結束」を掲げる。新=新しいこと・やり方にチャレンジし続けることを支援、成=自立した個人に成長することを支援、気=志と強い気概・信念を持ち計画をやり抜いていくことを支援――を約束する。そして結束は「チームワーク。自分だけよければいいというのではなく、当社の強みである周囲を巻き込んで力を発揮することを重視」(丸山人事部長)したものだ。

 たとえば新しいことにチャレンジすれば当然失敗もする。失敗すれば自己責任で減点、というのが世の風潮だがそうはしない。

「失敗しなければ本当の力はつきません。10個挑戦すれば7つや8つは失敗するものです。いちいち減点していたら成長しないし、評価を下げることもしない。失敗を恐れずに伸び伸びと成長してほしいという考えです」(丸山人事部長)

 この考え方は処遇制度にも貫かれている。非管理職層の給与は資格ごとに昇給していく「能力給」一本であるが、能力評価は前述した「新・成・気・結束」のそれぞれの内容を資格ランクごとに落とし込んだ行動プロセスが大きなウエートを占める。したがって業績評価によって給与が下がることはなく「あまり大きな差をつけることなく、じっくりと育成していく」(丸山人事部長)ことを主眼としている。

 とはいっても決して年功型の処遇制度ではない。管理職層は上位になるほど業績評価のウエートが大きくなる。しかも能力ではなく、任用された仕事の役割や職責の重さに基づく役割給制度を05年に導入している。たとえば部長であっても役割を果たせなければ課長職に“降格”し、給与も下がる仕組みにした。

 これにより優秀な若手の登用が可能になる。その結果、管理職になるのは従来40歳前後だったが、現在では最短で34~35歳に下がっている。また、最上位の部長・支社長クラスの最年少は41~42歳という。

 この役割に基づく処遇制度は大手企業の主流になりつつあるが、同社の特徴は役割給以外に能力の伸長に基づく資格給を残していることだ。つまり部長職から課長職に降格しても資格給は下がることはない。役割給と資格給のウエートは60%対40%、年収ベースでは75%対25%の比率である。

「資格制度を完全になくしてしまうと極端に給与が変動してしまうため、変わらない部分として一部資格給を残すことにしました。あまりにも成果型の給与に偏るのがいいのかという判断もありました」(丸山人事部長)

 成果に基づき昇給・昇格のメリハリをつける成果主義の考え方の背景には、仮に減給・降格された場合、社員の奮起を促し、再チャレンジしてほしいとの期待がある。しかし誰しもそうなるとは限らない。欧米流の合理的思考の持ち主ならともかく、日本的企業風土では極端な成果型給与は意欲の減退も招きかねない。資格給を残したのは、制度のもたらす副作用を考慮した同社ならではの微妙な配慮といえる。

 一定の安定的給与の保障に加えて、若手を登用するといっても安易に成果・業績だけで昇格させることはしない。ポストへの登用に際しては所属部門の情報や労働組合などあらゆる情報を集めて慎重に検討する。なかでも年上の社員を上手に使えるかどうかを重視する。

「目上の人を上手に使える人間こそ伸びると思っています。若い管理職に常に言っているのは、ものの言い方に気をつけろ、年上というのは絶対的価値であり、君たちは業務の遂行能力などで評価されたかもしれないが、人間の価値とは別に何も関係ないと。年上の部下に対しても、もちろん言いたいことは言わないといけないが、丁寧に接してモチベーションを上げて、一緒にやってもらうような状況をつくる人間が上位に進めると言っています」(丸山人事部長)


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